捻って溢れるのは水じゃなく、逆に捻っても収まらないんだ

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くたくたの足で階段をのぼり、顔をあげると目の前に水飲み場。階段の先は四組側の水飲み場の真ん前に繋がっているんだ。 そこに、彼がいた。 まだ華奢だけど女子とは違う背中を丸めて腰をかがめ、蛇口を捻り水を出す男の子。さっき見ていた友美は近くにいない。 通りすぎようと数歩あるいたけど、くたくたの足はなぜか止まってしまった。 そのうえ私の目は、彼がひねり出した蛇口の水から視線を離せない。上向きにされた銀色の管から、冷たそうな水が不規則な形を作りながら落ちていく。 その水に彼の顔が近付き、一瞬唇が……触れた。そのままゴクゴクと喉を鳴らして飲み込まれていく水。上下する喉仏。濡れる口元と、顎から喉に流れていく水の線。 ふっと顔をあげて、片腕で乱暴に口元を拭うと、もう片方の手で蛇口は捻られ、水は勢いをなくし、止まった。上向きになったままの蛇口には、表面張力で水がこぼれる手前で盛り上がっている。 ……見ちゃった。 彼の唇が蛇口に触れたのを、見てしまった。わざとじゃない、つい屈みすぎたのか、水の勢いが足りなかったのか。 彼は口元をぬぐいながら、こっちに気がついた。
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