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「水、飲みに来たの?」
彼に問われて、ちょっと驚きながら「うん」と、答える。
今日のマラソン、キツかったなぁ、なんて普通に話しかけてくれたけど、私は視線を合わせられなかった。
ちなみに、この水飲み場には蛇口が三つしかない。彼が使ったのは真ん中。
さっき問われて、水を飲みにきたと言ったんだから飲まなければならない。実際、喉はカラカラに渇いていたし、みんな体育のあとは水を飲む。
でもさすがに今、彼が使ったところをすぐに使うのはちょっと気が引ける。嫌なんじゃなく、気にしないかなぁって、気にする。
なにより、彼の唇が触れたのを見てしまったのだ。私の方が気になって水なんて飲めない。だから真ん中じゃなく、その左側の蛇口に近寄り蛇口を捻ろうと手を伸ばした。すると。
「あ、そこはやめといた方がいいぜ?」
「ど、どうして?」
ビクッと、蛇口に今にも触れるところだった手が止まる。
「今朝、アイツが口つけて飲んでるの見ちゃったんだよなぁ」
アイツとは、六年生のクラスメイトの中で一番太っていて、同じ一組。夏場はかなりのアブラギッシュになる暑苦しい男子のこと。
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