捻って溢れるのは水じゃなく、逆に捻っても収まらないんだ

5/14
前へ
/14ページ
次へ
「水、飲みに来たの?」 彼に問われて、ちょっと驚きながら「うん」と、答える。 今日のマラソン、キツかったなぁ、なんて普通に話しかけてくれたけど、私は視線を合わせられなかった。 ちなみに、この水飲み場には蛇口が三つしかない。彼が使ったのは真ん中。 さっき問われて、水を飲みにきたと言ったんだから飲まなければならない。実際、喉はカラカラに渇いていたし、みんな体育のあとは水を飲む。 でもさすがに今、彼が使ったところをすぐに使うのはちょっと気が引ける。嫌なんじゃなく、気にしないかなぁって、気にする。 なにより、彼の唇が触れたのを見てしまったのだ。私の方が気になって水なんて飲めない。だから真ん中じゃなく、その左側の蛇口に近寄り蛇口を捻ろうと手を伸ばした。すると。 「あ、そこはやめといた方がいいぜ?」 「ど、どうして?」 ビクッと、蛇口に今にも触れるところだった手が止まる。 「今朝、アイツが口つけて飲んでるの見ちゃったんだよなぁ」 アイツとは、六年生のクラスメイトの中で一番太っていて、同じ一組。夏場はかなりのアブラギッシュになる暑苦しい男子のこと。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加