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さらに彼は背中を壁に預けながら腕を組む。なかなか様になる格好だ。
「その三組のアイツが、右の蛇口を舐めてたらしい」
「なめ……っ!?」
バッと勢いよく手を引き後ずさる。
「自分の後にその蛇口を使う女子を遠くからチェックして、ストーカーまがいのことをしてるらしい」
気色悪い。
そんなこと言われたら、もう真ん中しかないじゃない。でも、ここで真ん中を使ったら……。
さっき彼の唇が触れた蛇口を見つめてしまう。そして、彼の唇を……。
いやいや、彼はただ両端の蛇口はイタズラされているから(左はイタズラかわかんないけど)注意してくれただけだ。なんの意図もなく、真ん中は大丈夫だと言ってくれているだけなんだから。
「……ま、真ん中は?」
「ん?」
壁に背をつけたまま、彼は形のいい唇に笑みを浮かべて私を見た。
「真ん中は……大丈夫なの?」
私よりちょっと背が高い彼の目を、上目使いに見上げる。彼は組んでいた腕をほどいて、その手で蛇口を捻った。
「大丈夫」
微笑みながら。
誘うように。
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