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私は吸い込まれるように、真ん中の蛇口に近寄った。
目に写るのは、上向きにされた銀色の管から溢れる、不規則な形の水の流れ。
不思議と時が止まったような感覚に頭の隅でチリチリと警告が鳴る。でもそんな小さな音は、水の流れる音が押し流してしまう。
喉が、渇いた。
水を、飲みたい。
すぐ、飲みたい。
冷たい、水が。
いま、目の前に。
もう、唇が水に触れる。蛇口から跳ねた水滴が上唇に触れた、そのとき。
「その水、飲んじゃダメ!」
そんな叫び声と共に、後ろから羽交い締めにされて床に尻餅をついた。私を引っ張った張本人も一緒に転んだらしく、二人しておしりを撫でている。
私より先に後ろで女の子が立ち上がった。指をさして、叫ぶ。
「よく見て!」
そう言われて指差して入る方を見る。といってもそれはいつもと変わらぬ水飲み場。しかし違うのが、さっきまでなかったものがひとつ。
真ん中の蛇口の下に何かある。床に座った状態でも見えたそれは……掃除用の、バケツ?
並々と透明な水が満たされた、青いバケツ。
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