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その日は突然やってきた。
躁狂に囲まれるのに少し疲れて、壁にもたれてぼんやりとしていたところに、彼の方から俺に近づいてきた。
「あんたの酒、甘い匂いするね」
一口味見させてよ、と彼は俺のモヒートに手を伸ばした。
「そっちのも一口ちょうだい」
「いいよ」
大音量の音楽に掻き消されてしまわないように、互いに顔を近づけて耳元で話す。
彼はこんな声で喋る人だったんだな。
彼がぴったりとくっつくように俺の隣にいる。
その緊張を見破られないように、なるべく無表情を努めながら、彼のコップに口をつける。
苦いグレープフルーツの味で舌が痺れそう。
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