#01

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 その日は突然やってきた。  躁狂に囲まれるのに少し疲れて、壁にもたれてぼんやりとしていたところに、彼の方から俺に近づいてきた。 「あんたの酒、甘い匂いするね」  一口味見させてよ、と彼は俺のモヒートに手を伸ばした。 「そっちのも一口ちょうだい」 「いいよ」  大音量の音楽に掻き消されてしまわないように、互いに顔を近づけて耳元で話す。  彼はこんな声で喋る人だったんだな。  彼がぴったりとくっつくように俺の隣にいる。  その緊張を見破られないように、なるべく無表情を努めながら、彼のコップに口をつける。  苦いグレープフルーツの味で舌が痺れそう。
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