#03

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「だから、俺のこと見捨てないで。俺にはあんたしかいないんだ」  彼のどこにこんな力があったのかと思うくらい、強く俺の手首を掴んで放さない。 「いつもさ、凄く腹が空いててコンビニに行くんだけど、棚に並んでるどれも食べたいって思えなくて、自分が食べたいものが何にもわからない。そういう感じなんだよ。だから、俺の欲望さえ満たしてくれれば誰にやられても同じだって思ってた。でも、あんただけは違う。特別なごちそうみたいなんだ」  俺だけだと言われて嬉しいはずなのに。その言葉を望んでいたはずなのに。  自分の言いなりにしかならない犬に突如として噛み付かれたような、驚きと恐怖が襲ってくる。  大人しくて何でも俺に決めさせてくれる彼だったのに。  今まで俺が見たことがない彼がいる。
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