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ある晩、終電の時刻が近づきそろそろ帰ろうかと思い、ふと反対側の快速のホームに目をやると。
彼がいた。
一瞬目が合って、彼は逸らして。
ふいに振り返って、もう一度俺を見た。
彼の視線に鼓動が止まりそうになって戸惑っているうちに、彼は人の波に消えていく。
階段を駆け下り雑踏をかき分けて、彼を追いかけた。
見失うな、今見失ったらもう二度と捕まえられない。
オフホワイトのシャツに濃い色のジーンズ、グレーのカーディガン、斜めがけの黒い鞄。
あれは絶対に彼だった。
人波の中に彼の顔を懸命に捜すけれど、見つからない。
あの顔はあの佇まいは、絶対に忘れないはずなのに。
何処だ、彼は何処にいる。
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