96人が本棚に入れています
本棚に追加
改札の向こう側に彼は立っていた。
また目が合って、今度は逸らさない。
整わない息を必死で抑えながら、混んだ改札口で人にぶつかりながら、やっとの思いで彼の前に辿り着いた。
「俺のこと、ずっと探してた?」
「えっと……ここにいれば、もしかしたら逢えるかもって……」
「毎晩来てただろ。駅前で主人の帰りを待ってる犬いるじゃん。あれみたい」
「気付いてたなら、なんで……」
「ここじゃなんだからさ、どっか入ろう。あんたの家でもいいよ」
一瞬でも目を逸らしたら逃げてしまいそうな気がして、彼の手首を掴んで新宿方面行きのホームに戻り、引き摺るようにして俺の部屋へ連れて行く。
リードを引っ張らなくても自ずとついてきてくれたのに、今は引く手に身体の重さを感じる。
最初のコメントを投稿しよう!