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愛猫
ウチには、もう二十年近く生きている猫がいる。
数年前に死んだ主人が、どこかからもらってきた雑種の猫で、最初は猫であれ犬であれ他の何であれ、動物を飼うことには難色があったけれど、小さな体を震わせ、か細い声で鳴きながらすり寄って来る姿は愛らしくて、気づけば私にとっても主人にとっても、猫はいなくてはならない家族になっていた。
子供がいないせいもあるけれど、本当に、甘えて懐いてくる様子が可愛くて、まるで実の子供のように二人でとても大切に育てた。主人が亡くなってからは、拠り所にする気持ちももちろんあったけれど、むしろ、片親になってしまった我が子を女手一つで育てている、そんな気持ちで愛情を注いだ。
その子がそろそろ寿命を迎えようとしている。
この二、三か月、あまり動くことがなくなり、食事の量も減ってきたから、それが兆しだとは思っていたけれど、最近はお気に入りのクッションの上で日がな眠っているばかりで、いよいよお迎えが近いらしい。
生き物は、必ずいつかはこの世からいなくなる。悲しいけれどそれが自然の摂理だから、この子がじきに天命を終えるのも仕方のないことだ。
隣に座り、頭を撫でる。名前を呼ぶと、か弱い声で『みゃう』と鳴いた。
お前はもうじき、お父さんの所へ旅立つんだね。でも、お母さんは悲しまないよ。だってお前の旅立ちを見届けたら、お母さんもすぐにそっちへ逝くんだもの。
* * *
「母さん。向かいの家、バタバタしてるけど、何かあったの?」
「ああ。昨日ね、あそこのおばあちゃんが亡くなってるのが見つかったの」
「え?! 向かいのばあちゃん、死んだの?! 病気?」
「普通に自然死だったみたいよ。いつお迎えが来てもおかしくない年齢だったから」
「そっか…」
「おじいちゃんが亡くなったのも、もう何年も前だしね。猫がいる内は元気でいたいって言ってたけど、内心は気落ちしてたんじゃないかしらね」
「! ばあちゃん死んじゃったなら、猫は?! あいつ、どうなったの?」
「おばあちゃんを見つけた時には、猫ももう死んじゃってたみたいよ。…あの子も長く生きてたから、もしかしたら、おばあちゃんを追って逝ったのかもね」
「………」
* * *
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