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私は本当に覚えていなかった。というか、何だか記憶があやふやで、何が最後の記憶なのかも分からなかった。
抱き付かれていたことに驚いてあまり考えていなかったけど、落ち着いたら記憶がおかしいことに不安が増してくる。
何で私は覚えてないんだろう?
変だ。
絶対に変だ。
どんなに考えても何も出てこない。
必死になって思い出そうとすると、頭が痛くなってきた。
手で頭を押さえて、私は痛いのもかまわず考えた。
何か。
何か覚えてないの?
「――晴香!」
私は私の名前を呼ぶ清晴の声を聞いてはっとした。心配そうな顔で、清晴が私の顔を覗きこんでいる。
「大丈夫か?」
「あ、うん」
正直、全然大丈夫じゃない。
でも、清晴が本当に心配そうな顔をしていたから、ついうっかり頷いてしまった。
清晴のこんな顔は、あまり見たことがない。
親同士の仲がよくて、清晴とは赤ちゃんの頃からずっと一緒だった。そして、いつも私達はふざけあってちゃかしあってきた。私が風邪をひいて熱を出した時でさえ、清晴は『バカは風邪ひかないって言うのにな』とふざけていた。
その清晴が私を気遣っている。
いつもと違う清晴に、私は何だかムズムズした。
「記憶は……そのうち戻るさ」
清晴が私の頭を撫でた。
その清晴の行動に、私は衝撃を受ける。
小さい頃は私と同じぐらいの身長だった清晴は、中学生の後半から身長がぐんぐん伸びた。高校に入る頃には私よりもかなり高くなり、そのことを自慢するかのように、私の頭を上からポンポンと叩くのが清晴の癖になっていた。
こんな優しい撫で方ではけっしてない。
ただただ驚くことしか出来ない私に、清晴は撫でたまま笑いかける。そして、優しげな目で私を見た。
「大丈夫だ」
この人、誰えええぇぇぇ!
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