ゲート

5/6
前へ
/23ページ
次へ
 私は本当に覚えていなかった。というか、何だか記憶があやふやで、何が最後の記憶なのかも分からなかった。  抱き付かれていたことに驚いてあまり考えていなかったけど、落ち着いたら記憶がおかしいことに不安が増してくる。  何で私は覚えてないんだろう?  変だ。  絶対に変だ。  どんなに考えても何も出てこない。  必死になって思い出そうとすると、頭が痛くなってきた。  手で頭を押さえて、私は痛いのもかまわず考えた。  何か。  何か覚えてないの? 「――晴香!」  私は私の名前を呼ぶ清晴の声を聞いてはっとした。心配そうな顔で、清晴が私の顔を覗きこんでいる。 「大丈夫か?」 「あ、うん」  正直、全然大丈夫じゃない。  でも、清晴が本当に心配そうな顔をしていたから、ついうっかり頷いてしまった。  清晴のこんな顔は、あまり見たことがない。  親同士の仲がよくて、清晴とは赤ちゃんの頃からずっと一緒だった。そして、いつも私達はふざけあってちゃかしあってきた。私が風邪をひいて熱を出した時でさえ、清晴は『バカは風邪ひかないって言うのにな』とふざけていた。  その清晴が私を気遣っている。  いつもと違う清晴に、私は何だかムズムズした。 「記憶は……そのうち戻るさ」  清晴が私の頭を撫でた。  その清晴の行動に、私は衝撃を受ける。  小さい頃は私と同じぐらいの身長だった清晴は、中学生の後半から身長がぐんぐん伸びた。高校に入る頃には私よりもかなり高くなり、そのことを自慢するかのように、私の頭を上からポンポンと叩くのが清晴の癖になっていた。  こんな優しい撫で方ではけっしてない。  ただただ驚くことしか出来ない私に、清晴は撫でたまま笑いかける。そして、優しげな目で私を見た。 「大丈夫だ」  この人、誰えええぇぇぇ!
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加