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「待った!そっちへはまだー」
わたしは言いかけた言葉を飲み込んだ。
なぜなら、すでに骸となった兄の血だまりの上、微動だにせず見下ろす少女の姿があまりにも美しかったからだった。
声も発さず、涙ひとつ流さず、ただただ床のシミを見るような瞳は、血だまりの鮮血よりも赤く光り輝いていた。
そして、少女は何事もなかったかのように、赤く染めた白いワンピースの裾を揺らしながらベッド脇まで歩いていくと、再びクマのぬいぐるみを抱いて、わたしに囁きかけた。
「この子だけは、助けて」
と。
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