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「いいえ。あの時私は、掴んだ手を故意に離しました。」 「どうして故意に手を離したんですか。」 「CPUがそう命じたからです。」 「CPUがそう命じた理由は、分かりませんか。」 「申し訳ありません。私にそれをお話する機能は備わっていません。」 先ほど滝沢が話していたことと全く同じことを返される。 「分かりました。では、最初に上島さんが転落した時はどういった状況でしたか。」 「あの時、上島さんは体のほとんどを柵の外に投げ出していました。その体重比率が50%を超えた時、落下しました。」 あなたが何かをしたわけではないのですねとの問いには、素直に何もしていないと答えたイヴ。 「…分かりました、では最後の質問です。上島さんが装着していた命綱はどのタイミングで外されましたか。」 「申し訳ありません。私のメモリにはその記憶が保存されていません。」 やはり、肝心なことは闇の中…か。 「…質問は以上です。ありがとうございました。」 席を立ち、出口へ向かう。刑事二人もそれに合わせて控室の扉を開いた。関口のほらみろという主張が、顔から漏れ出ている。 「厄介なもんでしょう。」 そう告げた滝沢にも、少なからずそんな気持ちがあったかもしれない。 「ええ、おっしゃる通りでした。すぐに家宅捜索の令状を取っていただけますか。明日の朝には踏み込めるはずです。」 佐伯の思いがけず素直な返答に二人は目を丸くした。 「昨日の段階で取っていただければ、この足で踏み込めたんですが。」 この最後の一言は余計だったようだ。さらに佐伯はビデオの解析を進めてくださいと続けて二人に背を向ける。滝沢はまた眉間にしわを寄せ、関口は顔を怒りで赤くしながら部屋から出ていく佐伯を見送った。
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