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その頃、サテライト社会議室では取締役や上席研究員などが落ち着かない様子で代表者の到着を今か今かと待っていた。正午からの記者会見まで10分を切っている。その焦りがピークに達しようとしている中、弟を苛立たせている佐伯司は脚を組み、ただ悠然と構えていた。 「すまない、飛行機が遅れた。」 会見まであと5分を切った所で、皆が待ち焦がれていた人物が颯爽と現れる。その瞬間、一気に安堵へと変わる空気感は、サテライト社CEO・桑名の強い求心力を物語っていた。 「話は歩きながら聞こう。」 号令と共に全員が立ち上がり会見場へと向かい始める。司も歩みを進めながら桑名に原稿を差し出した。 「まぁ、必要ないとは思いますが。」 差し出された原稿に目を落とし、桑名がため息交じりに呟く。 「今回問題を起こした人工知能は研究段階のものであり製品化はしていない、現在販売しているシリーズは人工知能を有していないため回収は考えていない、詳しいことは捜査段階なのでお話できない…簡単なもんだ。」 桑名はこれを言うためだけに出張先のヨーロッパから急遽帰国してきたのだ。お気の毒にと言いながら口角を上げる司。 「捜査の状況は。」 「捜査権がまだ警察にあるので、なかなか介入が難しいところですね。」 「…こんな時のためにお前に何億払ってると思ってる。」 飄々とした口調に桑名の一瞥が注がれるが、司の笑顔は崩れない。 「警察は48時間以内に送検する必要があるので、明日にはイヴちゃんにも会えますよ。」 向こうがやってくるとしたら家宅捜索くらいでしょうと続ける司には、誰かの顔が浮かんでいるようだ。その笑みに少し冷たさが混じったころ、会見場に到着した。 「全て任せる。不利益だけは被るな。」 桑名はネクタイを整えながら扉の前に立つ。 「ええ、もちろん。」 そう呟きながら、無数のフラッシュライトの中に入る桑名を笑顔で見送った。
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