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「12月1日、サテライト株式会社が開発した人工知能AZ-002が、同社が主催する『フューチャーチルドレン』のクリスマスイベントにて、同社社員研究員である上島圭一郎を殺害した。」 人定質問の後に実施される罪状認否にて、検察官の淀みない声が響く。 検察官は手元にある資料を一言一句見落とすことなく読み上げ、静かに着席した。 「起訴状に間違いはありませんか。」 裁判長のこの質問も法律で定められているものだ。しかしいつもと違うことは、この問いが向けられた相手が被告人である人工知能ではなく、弁護人だという点である。 弁護人が立ち上がり、裁判長の問いに答える。 「否認します。AZ-002はそのような罪を犯していません。」 弁護人もまた、淀みない声で答えた。真正面にいる検察官を見つめながら。 「否認だ!否認!」 傍聴席にいた数人が声を荒げ慌ただしく走り去っていく。数分後にはお茶の間のテレビに≪人工知能事件、被告側は否認≫というテロップが踊っているだろう。弁護人は鼻で溜め息をこぼしながら着席した。 ざわつく法廷を裁判長がたしなめるしばしの間、鋭く見つめ合う二人だけには静寂が訪れていた。
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