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滝沢の無駄のない報告に刑事歴の長さが伺える。最後の言い間違いもそれ故のことだろう、通常なら自供があれば現行犯逮捕なのだから。 佐伯は肘をつき、交差させた指を口の前で構えながらその話を聞いていた。 「現場にいたのは、10年前サテライト社が開発した人工知能です。男性型と女性型がおり、製造番号はそれぞれAZ-001、AZ-002…アダムとイヴ、と呼ばれていたようです。現在同社が量産販売しているロボットは全てこの2体を元に製造されています。今回自供したのは、女性型のイヴの方でした。」 人口減少と少子高齢化がますます深刻化する先進国では、医療や福祉の現場でロボットがもはや手放せない。世界中の企業がこぞって開発を行う中、サテライト社が開発するロボットはそのクオリティの高さから国内外の生産台数のトップに君臨していた。そのオリジナルモデルである2体はまさに、この世に最初に誕生したアダムとイヴだろう。 「殺害を認めた際の状況をもう少し詳細にお願いします。」 滝沢の説明を大きく頷きながら聞いていた関口は、自分たちの誤認逮捕を疑われたと感じたのか、その言葉にむっとした表情を見せた。佐伯は大切なことですのでと付け加え、返答を待つ。 「被疑者の所在を確認した際に、私ですと申し出てきました。再度、君がやったのかと確認しましたが、はいと答えたので拘束しました。」 「動機は?」 「CPUがそう命じた、と話しています。どうして命じたのかと尋ねても、話をする機能が備わってないと返され、それの繰り返しです。」 CPU…コンピュータの計算、処理、制御、命令を司る部分、人間でいう脳だ。研究員に話を聞くと、CPUに関する質問をされるとオートセーブがかかるようにになっているという。開発部分に関わることだから、それ以上の話は正式な申し出がないと話せないの一点張りだったそうだ。 「…拘束した際の研究員の反応はどうでしたか。」 「ええ、みな一様に動揺したような表情を見せていました。確かに、明らかに殺意があったと分かるような状況ではなかったようですので、それも頷けます。」 その言葉を皮切りに、話は事件発生時の状況へと進展する。 「イベントスタッフがPR用動画製作のために、ビデオカメラを録画していました。これを見ていただける方が客観的かと。」 その言葉を合図に、関口がテレビのスイッチを入れた。
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