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先ほど笑顔を向けていた上島が、女性のシルエットと共にバケットに乗り込む。レンズからは少し距離があるようで、イヴの顔は分からなかったが、上島が手に余るほどの大きな星を持っていることははっきりとわかった。 バケットが徐々に上昇し始め、カメラのレンズもそれを追いかけ上へ上へと登っていく。頂上に辿りついた頃には、二人の姿はズームアップしてようやく捉えられるほどに小さくなっていた。男が持っていた星をあるべく場所に取り付けようと上体を外へ投げ出す。 「危ないですね。これは。」 佐伯の言葉に、そうなんですよ…と滝沢も同意した。 「ただ、バケットに乗り込む際には二人とも命綱をつけて柵に固定しています。少々乗り出しても問題ないと思ったのでしょう。」 佐伯が先ほど二人が乗り込んだシーンを思い浮かべる。確かにあの時二人は腰にロープを巻き付け、先端のカナビラをバケットに取り付けていた。この二人だけではない、同じようにバケットに乗車していた家族たちもみな命綱を装着していた。安全管理は徹底している印象を受けたが…。 その瞬間、男の全身がバケットから離れた。同時に手放した星は一瞬で画面下へ姿を消し、甲高く残骸へと変わる音だけが記録されていた。こだまする悲鳴とともに、レンズはしっかりとバケットにいる二人の姿をとらえている。そこには、一本の手で繋がりあう二人の姿が映し出されていた。が、1秒も経たないうちにその手は離れていく。こうして男は、地面へとたたきつけられた。カメラは芝生に投げ出され、その後動くことはなかった。 「映像は以上です。」 リモコンの停止ボタンが押される。佐伯と同様に映像を初めてみた署長から声が漏れ出た。 「これは、なかなか…。」 「難しいですね。」 しばらく無言だった佐伯が署長の言葉に続く。ビデオを見る限り、それは痛ましい事故だった。しかし気になるのは… 「命綱がいつ外れたのかは、ビデオでは分かりませんでしたね。」
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