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「ええ、何分高さがあったので、他の目撃者も分からないと言っていました。落下した被害者にはロープがしっかりと固定されていましたので、カナビラの方が外れたと考えられます。現在鑑識に回しています。」 「拘束されている人工知能は何と言っていますか。一番近くで見ているはずです。」 メモリには保存されてないとか何とか…まぁ、結局は分からず仕舞いですと、蓄えた無精髭を撫でる滝沢。機械への事情聴取は、ベテラン刑事でもお手上げのようだ。 「それでは埒があきませんね。」 佐伯のこの発言も、関口には当て付けのように聞こえたようだ。その表情にますますの怒りが露わになる。滝沢はそれを横目で見据えながら、申し訳ありませんと口にした。 「人工知能はあの中に?」 佐伯の視線が更に奥へと続く扉を指していた。滝沢のそうですと言う言葉を受け、取調室へと歩みを進めていく。刑事たちも同席しようと立ち上がるが、私だけで結構ですと言い放ち、一人、扉の中に入っていった。これにはさすがの滝沢も眉をひそめ、関口も悪態をつきながら控室へと入る。 マジックミラー越しに、イヴと対峙する佐伯の姿があった。佐伯は向かい合う椅子に腰を下ろす。 「東京地検の佐伯と言います。」 「こんにちは、私の名前はAZ-002です。」 目の前にあるのが、本当に作られた物なのかと少しばかり動揺した。肌や髪の毛の質感、顔全体の形状は正しく人間のそれで、普段取り調べを行っている人と全く変わらない。ただ一つ違うのは、感情の抑揚が目や所作に現れないところだ。ただ佐伯の目を見つめている。 「イヴ…と呼ばれていたようですね。私もそう呼んでもいいですか。」 「ええ、もちろん。」 イヴの喉元から放たれる声は、人が声帯を震わせて発する声と全く遜色がない。スピーカーから発せられてるという事実を認識していても、それを疑ってしまうほどだ。 「ではイヴ、もう何度も聞かれたかもしれませんが、あの時一緒にいた上島さんを殺したというのは本当ですか。」 「はい、私が殺害しました。」 「それは、一度掴んだ手を図らずも離してしまったという気持ちからくるものではありませんか。」 いわゆる良心の呵責というものだ。佐伯はイヴの殺害したという言葉の意味を推し量ろうとしていた。
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