予備校で

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「山本さん。先日の全国模試の事なんですが、結果は見事に合格圏内でした。このまま行けば、T大合格は間違い無いですよ」 泉先生は、銀縁眼鏡の奥の切れ長の目を、柔和に細めながらそう云った。 その嬉しい報告に、僕は飛び跳ねる程の幸福感を覚える。 「ほ、本当ですか!」 「ええ。ここが一番の勝負ですよ。だから絶っ対に気を抜かないで下さい。今までの努力を無駄にしない為にも」 泉先生は、『絶対』と云う言葉を強調するように語調を強めた。 「は、はい!」 僕は浮足立つ気持ちを少しだけ落ち着かせ、ハッキリとした返事をする。 ……そうなのだ。 まだ合格が決まったわけでは無い。 あくまでも今現在の状態であれば……というわけなのであって、この結果に慢心してしまっては、今までの浪人生活を再び繰り返す事になってしまう。 尚一層頑張らなくては……僕は合格祈願の思いを強めていく。 「僕、今まで以上に頑張ります! ……今まで頑張れたのは、先生のお陰ですし」 「? ……そう云っていただけますと、私もとても嬉しいです」 熱を帯びた僕の言葉に泉先生は訝しいものを感じたらしく、妙な間が空いてしまったのだが、彼女は顔面に携えたニッコリとした表情を崩しはしなかった。 ……しかし。 「……では」 先生はそう云って背中を向け、その場を離れようとしてしまったのである。 表情にこそ表れてはいないが、そこには緩い拒絶感があるように感じられた。 僕は気が付いた時には大声を出していた。
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