第二章 廃城の異形

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 最初に目に入ったのは豪奢な天蓋の細工だった。黒漆塗りの地に金で模様が描かれ、蔓草の刺繍のされたしなやかな布が垂れ下がっている。    かすかにパチリと薪の爆ぜる音がして、いくらか埃臭い空間に火の匂いが漂っていた。   ショウは幾度か瞬きをして、枕の上で視線を巡らした。  薄暗い中に徐々に目が慣れていき、ずいぶんと広い部屋だというのがわかってくる。    暗がりに沈む部屋の隅の方に、彫刻の施されたいかにも重厚な扉が見えた。  壁には薔薇をかたどった文様が描かれ、部屋の中央には優美な椅子と小さなテーブルとがあり、隅には年代を経た黒檀の飾り棚が据えられている。  隠すように布の掛けられた人の背丈ほどのあれは、姿見だろうか。  飾り天井にシャンデリアが吊り下がり、薄暗い中にもちらちらと火の明りが、クリスタルに小さく反射している。  そっと体を起こすと、さらりと絹の寝具が膝に落ちた。  貴族の眠るようないかにも高価そうなベッドだが、寝具も家具もどこか古臭く、長くしまい込まれていたような独特の匂いがした。      雪と泥に塗れた服は、いつの間にか絹の寝間着に替えられている。首に掛けられたクルスのペンダントだけがそのままだ。  確かめるように触れた冷たいペンダントの表面で、蔓薔薇模様が鈍く光る。  ここはどこだろう。なぜこんな所に──。  思った瞬間、狼達の光る眼と、夜の森に立つ金の獣の唸りと異容とが脳裏に甦った。  ──ぱち、とどこかで火のはぜる音がする。視線を巡らすと、天蓋の布越しに暖炉の火明りが透けて見える。それがこの部屋の唯一の光源のようだった。
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