季節はずれの蛍

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 今日はお母さんとおじいちゃん、おばあちゃんと一緒に花火を見に行く。僕はいそいそと支度をし、家族で川原まで歩いて行った。 川原で僕らは花火を見ていた。 花火は盛大に上がり綺麗だけど、30分もすると首が疲れてきた。 ふと、僕が目を川原にうつすと、井沢君を見つけた。 彼も花火に来てたのか。僕は井沢君に声をかけた。 「こんばんは。君も花火を見にきたの?誰ときてるの?」 そう言うと、井沢君は、 「一人。」 と答えた。お父さんとお母さんはどうしたのだろう。 「一緒に見ようか。」 僕は井沢君を誘った。お母さんに井沢君を紹介した。お母さんはうれしそう。 僕に友達ができたことを心底喜んでいるのだ。でも、僕と井沢君はそんなに 親しくはない。井沢君はどこか、他の子と違い、大人びているのだ。 花火から帰って、おじいちゃんとおばあちゃんが井沢君のことを教えてくれた。井沢君のお父さんとお母さんは事故で亡くなったのだそうで、井沢君は叔父さんの家で引き取られたのだそうだ。僕は少し残酷なことをしてしまったのかも。 僕には、お母さんがいる。お父さんだって遠い町で生きている。 もう二度と両親に会えないなんて、胸が潰れるように悲しくなった。  次の日の夜、僕が縁側で足をプラプラさせながら、スイカにかぶりつき種を飛ばしていると 井沢君がうちの玄関先の門からうちの中を覗いていた。 「井沢君、どうしたの?こんな夜に。」 井沢君は、なんだかもじもじしている。 僕はスイカの皮を縁側に放り出し、井沢君のところまで歩いていった。 「昨日は、誘ってくれてありがとう。」 井沢君は恥ずかしそうに言った。井沢君って、自分を表現するのが苦手なだけなのかも。 「佐藤君、君にいいものを見せてあげる。」 井沢君は僕の手を引いた。 「え、でも、こんな夜中に出歩いたら、うちのお母さんが心配するよ。」 「大丈夫だよ、すぐ近くだから。」 僕は躊躇しながらも、井沢君の後について行った。 そこは、昨日の川原だった。 「ほら、見て。」 井沢君の指差す先に、いくつもの黄色い光が点いては消え、黒いキャンバスを彩る。 「黄色い宴だよ。」 井沢君は不思議なことを言った。たぶんこれは蛍だ。
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