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幸は後退を余儀なくされた。やがて――背中が何かとぶつかった。堅く妙に冷たい感触だった。振り返れば幸の背の何倍もありそうな高い壁が幸の行方を遮っていた。壁の幅はさほどないものの、気づけばみんなに囲まれれていて、横に動いて壁を避けることはできそうにない。
舌打ちをして、改めて前を向く。皆、幸をジッと見つめ、同じ言葉を同型反復している。まるで呪文のように繰り返されるそれは確実に幸の鼓膜を震わせる。とても不快な振動に、しゃがみこんで両手で耳を塞いだものの、まるで手をすり抜けてくるかのように、不思議とその声を遮ることができなかった。
お前なんて大嫌いだ。どっかいっちゃえ。目障りだ、消えろ。
「来ないでよ。来ないでったら」
徐々に声が大きくテンポも速くなる。幸はやめてよと叫び続ける。
自分が悪いことなんて分かっている。今更、いちいち言われることでもない。なのにどうしてみんなでよってたかって自分を責めるのだろう。
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