隣の家のてるてる坊主

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隣の家のてるてる坊主

「ママー。お隣のてるてる坊主さん、どうしてずっと吊るされたままなの?」  三歳になる息子に言われ、ベランダからマンションの隣室を窺った。  見れば、窓際に小さなてるてる坊主が吊るされている。隣の家のことだからいつから吊るされているのかはまるで判らないけれど、昨日まで雨続きだったから、きっとそれより前だろう。  正直なところ、てるてる坊主など、何かの弾みで吊るしたとしても、晴れた後には忘れてしまっていることがほとんどだ。  隣家は若い女性の独り暮らしだが、引っ越しの挨拶の後に一、二度見かけたきりで、以降はほとんど姿を見ていない、近所の話では看護師をしていて、相当忙しい人のようだから、たまたま理由があっててるてる坊主を吊るしたものの、下ろすことは完全に忘れてしまっているのだろう。 「お隣のお姉ちゃん、忙しくて、しまってあげるの、忘れちゃってるんだと思うよ」 「ふぅん」  さすがに細かく説明しても判らないだろうから、簡素にそれだけ伝えると、息子は子供なりに納得したようだった。  そんなやりとのあった日から数日。 「ママ。お隣のてるてる坊主さん、しまってもらえたみたい」  息子の報告に、私は隣家のベランダを窺った。  確かに、昨日までは吊るされていたてるてる坊主かなくなっている。  昨日から今朝にかけて隣人を見た覚えはないし、取り立てて物音も聞かなかったが、いつの間にか帰って来ていたのだろうか。  看護師だというのなら、勤務時間は不規則だろう。こちらが眠っている間の帰宅ならば気づかなくても無理はない。  単純にそう思っていたが、実は、隣人は帰宅などしていなかったと、それを知ったのは午後になってからだ。  昼食の後からやたらと外が騒がしく、しかも隣の家に人が出入りし、騒ぐような声までしたので、私はベランダから隣の様子を窺った。  ここへ越して来た時に挨拶をした大家さんが見知らぬ老夫婦を隣家に上がらせている。  隣は女性の独り暮らしなのにどういうことだろう。もしかしたら何かあったのではないか。  好奇心以上に不安が膨れ上がり、窓の閉ざされたベランダからでは声をかけられぬため、私は玄関から外へ出た。
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