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そこには、近所の奥さん達が数人いて、遠巻きに隣家を窺っていた。
「あの…どうかしたんですか?」
そっと問いかけると、奥さんの一人が手招きで寄って来いと誘う。近寄ると、ひそひそ声で耳にしたてらしい話を教えてくれた。
「そこに住んでた方、亡くなったんですって」
「え?! 何で…」
「どうも自殺みたいよ。それも、首吊り」
「よそで聞いた話だと、何日か行方不明になってたみたい。で、今朝、勤め先の病院の、普段は人の近づかない物置で発見されたって話」
「前から、仕事疲れでちょっと様子のおかしなところがあったから」
「遺体が見つかったの、昨夜の遅くらしいわよ。で、連絡を受けて、部屋にご両親が見えてるって訳」
情報通すぎる奥さん達が教えてくれる話が、私の意識を混乱させた。
隣家の女性は、もう何日も行方不明だった? しかも、昨夜の内には亡くなっていた?
だったらあのてるてる坊主は? 数日前に吊るされて、内の息子の話によると、今朝にはなくなっていたというてるてる坊主は…。
ふと、何かが頭の中をよぎった。
てるてる坊主…吊るされた姿。数日前に現れて、今朝にはなくなっていたてるてる坊主…。
「あ、の…息子が待ってるので、ごめんなさい」
子供の存在を言い訳にその場を離れ、家に入り込むと、私はへなへなと玄関先に膝から崩れた。
隣人が数日前から行方不明になっていたというならば、いったい誰があのてるてる坊主を吊るし、また、下ろしたというのだろう。いいやそもそも、あれは本当にてるてる坊主だったのだろうか。
その先を考えるのが怖くて、私はこの件に関わる一切の思考を停止させた。
ちなみにこれ以降、息子はにそれとなく、あまり近所を注意深く窺わないように言っている。
隣の家のてるてる坊主…完
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