絶望の先に

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生きることに疲れた私は、女一人で海を見に来ていた。 海が好きだったわけではない。 ただ、無性に日本海が見たくなった。 誰もいない海岸線の砂浜を歩いていると、自然と涙が零れた。 結婚まで考えていた彼を親友に奪われた。仕事もうまくいかず会社に馴染めないままストレスで鬱病になり、休みがちになったことでますます立場が悪化、ついに解雇を通達された。 何もかもが灰色だった。 いっそこのまま…なんて海を眺めるが、飛び込むような勇気もない。 こんなどうしようもない自分をもて余しながら、宿に帰ると、フロントの男性が優しく微笑んで迎えてくれた。 「お帰りなさいませ」 私は精一杯の作り笑いを浮かべて会釈をし、部屋の鍵を受け取った。 鍵を受け取った私にフロントの男性が話しかけてきた。 「帰ってきていただいて良かった。ホッとしました」 「どうして…ですか?」 私が問いかけると、男性はもう一度微笑んだ。 「失礼ですが、思い詰めた表情をされていたので。万が一のことがないか心配していたのです」 「まぁ」 私は曖昧な返事でごまかした。 フロントの男性は一枚のチケットを渡してくれた。 「もしよろしければ、どうぞ」 貸切露天風呂の無料入浴券だ。私は礼を述べてチケットを受け取り、部屋に戻った。 部屋でカバンを降ろし、改めてチケットを見直した私は、思わず「あら?」と声を洩らしてしまった。 確かに貸切露天風呂の無料券だったはずのチケットが、黒一色の券になっていた。 これはあの男性のイタズラなのだろうか… 私は何気なくチケットの半券を切り取った。 その瞬間、チケットが煙となり、煙の中から恐ろしい悪魔が現れた。 「ひとつだけ願いを叶えてやる」 悪魔はニヤリと笑って言った。 あまりにも現実離れした出来事にポカンとしながら私は宙に浮かぶ恐ろしい姿の悪魔を見上げた。 願い…夢も希望も失った私に願いを言えだなんて… 私は願いを考えた。 「じゃあ、行ってくる」 「気をつけてね」 エプロン姿の私は、玄関先で手を振って彼を見送った。 「さぁて、天気もいいし、お洗濯済ませて、お布団も干そうかな」 私はパタパタと家事に戻る。 私は今、最高に幸せだ。 私が望んだ悪魔への願い。 「決して私を裏切らない誠実な私のパートナーになってください」
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