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「…暑い」
滝のような汗を滴らせて藤堂は呟いた。
冬が寒く夏は暑い、のが京都である。
朝稽古が終わりしばらくすれば蒸し返すような暑さに襲われて、最近は体調を崩す隊員もチラホラ出始めているくらいだ。
厳しい隊規に逃げ出す者もいる、いわゆる脱走者だ。
残念だが脱走をタダで見逃しては沽券に関わるので探し出して捕縛、または斬り捨てる。
どのみち切腹しかないからみな死にものぐるいでかかってくるので幹部が出迎くことは少なくない…というかそちらのほうが多いくらいだ。
藤堂も何人か探し出して、斬った。
同志を斬るのは気持ちが良くない、が取り締まる側が罪を犯していい道理もなく、理屈で考えるのを諦めている。
もっとも、除隊届けを出せば揉め事なく辞めれるのだがどいつもこいつも隊規に背くためどうしようもない。
人間、やるまでそんな人間に思えぬ者が多いのだ。
そんなわけで幹部である藤堂もこうして汗を垂らしながら市中を廻っているのだ。
「それにしてもよくやる…なにか企んでいるのか?」
ぽつりと呟いた言葉には疑念の音が含まれている。
最近、浪士が集まって会合しているとか強請り集りがまた増えてきている。
規模こそ小さいが数だけは前より多い。
深夜や早朝だけでなく日中に駆り出されることもなんら珍しくないのだ。
確かに勤務できない者、脱走した者はいる。
しかしその分入隊する者もいるのだ。
いまだ大きな事件を解決してなく結成して日の浅い新撰組は確かに資金は潤沢でない。
それでも変わらぬ人数は維持していた。
一つとして、増え続ける浪士達の動きに先んじて副長である土方が監察方を大幅に増やした事。
そしてゆっくりと時間をかけ世間に馴染ませた彼等は常に市中で動向を探っており表向きの隊員として扱われてないこと。
名前だけが療養しているものも何人かいる。
「相変わらず先生はすごいな
今から監察の人を増やしてはとても間に合わなかっただろう」
いったい頭の中はどうなっているのか。
沖田が近藤を先生と慕うように、藤堂は土方を先生と慕う。
この流派で自分の面倒を見てくれたのは土方だった。
度々考え方の非凡さに肝を抜かれているのだ。
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