第10章

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届いたのは伊東の帰還ではなく、役人と名乗る男からの報告であった。 「御陵衛士の伊東先生らしき方が油小路で遭難されているため至急迎えに来られたい」 藤堂の不安が当たった、伊東も篠原ももっと藤堂の言葉を真摯に受けるべきだった。 新撰組を作り上げ、もっとも知る男なのだから。 先程の役人、きっと新撰組が使したものだろう。 いま御陵衛士の詰所である月真院にいるのは僅か七名。 行けば最後、待ち伏せている新撰組隊士に包み込まれて殺されるだろう。 多勢に無勢は明らか。 だが放置するわけにもいかない、このままでは晒し者になるだけだ。 引き取りにいくかどうか相談がされた。 藤堂は一人でも行くと最初にいった、新撰組に引き入れた責任を感じているようだ。 ついで篠原も行くことを決めた。 一生ついていくと決めた男の為、ここで死ぬのだ。 最終的には七名全員で引き取りに行くことがきまった。 ここで待ち伏せは必ずあるので、甲冑を身につけて行こうと服部武雄が言う。 しかし篠原は甲冑を身につけていても殺される、甲冑を着けて死ねば後世で笑い者になってしまう。 「このまま(平服)でいこう」 伊東の遺体を駕籠に乗せて一点突破しよう。 そう決まった。 藤堂平助、服部武雄、毛内有之助、篠原泰之進、富山弥兵衛、加納鷲雄、鈴木三木三郎の七名が月真院を出る頃、油小路では三十〜四十名の隊士達が鎖帷子まで着込んで息を潜めていた。
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