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「勝てるかな」
一人、土方は呟いた。
近藤はいない。
沖田もいない、夜の闇に溶けた。
開戦は時間の問題だと思っている。
沖田や土方にはないが、他の幹部達には情婦や妾の整理を命じた。
近藤の分は土方が行った。
死にはしないかも知れないが、勝てないかも知れない。
事ここにいたり、大将たる徳川慶喜は未だ大阪城に腰を据えたまま。
これではまるで沙汰を待つようであり、恭順である。
かつて大阪夏の陣があった。
豊臣方の総大将、秀頼はついぞ一歩も大阪城を出なかったでないか。
何度も出馬を請われてもこれを無視した。
こんな大将に兵士は力を振るうだろうか。
敵である家康は七十の老齢であるにも関わらず駿府から野戦の陣頭に立っているというのに、これでは士気が上がろうはずもない。
頼りない大将には運も兵も付いてこない。
これで勝てるか。
戦は勢いと流れが重要であるのに。
それでも土方は毎日望楼に登り布陣を見た。
変化をつぶさに拾った。
そして忘れ、常に状況を更新した。
開戦すればここが最前線となる。
薩摩は八百程度、こちらは新撰組百五十に幕府歩兵一千。
だがこの一千は大阪庶民からの募集が多くしょうもない連中が多い。
全体として敵は五千までおらず、こちらは進撃部隊だけで一万六千を超える。
しかし、土方に勝てると思えない。
「勝てるかな…」
近藤と沖田が、どうしようもなく恋しくなった。
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