第11章

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昼前に会津藩兵が伏見奉行所に続々と到着した。 これを率いるのは林権助、六十二になる老人だが会津家中の名家であり、この林家は代々権助を世襲している。 大砲奉行であり土方が新撰組に大砲をくれと強請った時も都合してくれた。 その縁で何度か酒を飲むことがあり、土方はこの老人に気に入られている。 槍と剣術の免許皆伝で、長沼流軍学に明るく調練で指揮をさせると抜群に上手い。 その林が持ち込んだ大砲は三門。 彦根藩が寝返ったため、山の薩摩の大砲を真っ先に潰さねばこちらがめくら撃ちされてしまう。 「まずはあの砲を潰していただきたい」 「いかにも」 二人で敵軍の配置を見ながら老人は呟く。 「まさかあの彦根の井伊が…」 この老人にはその寝返りがよほど堪えたようで、近藤もここにいれば同じことを言っていただろう。 「もう言わぬことです、なってしまったことだ」 夕方。 幕府軍が鳥羽口から強行しようとしたところに薩摩が大砲を撃ち込んだことから戦いが始まった。
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