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一度、屯所へ帰る。
井戸端で水浴びしている連中に混じって汗を流す。
腹拵えをし、日が陰る頃に再び市中へ繰り出した。
この町は昼と夜でハッキリと世界が変わるのだ。
文字どうりの光と闇…。
飲み込まれそうな深い闇が提灯の灯りのすぐそばに悠然と存在している。
息を呑む。
この世のものとはいまだ思えず、きっと死んだらこの闇に沈んでいくのだろうと考えるだけで背が冷たくなるほどだ。
(魑魅魍魎も、本当にいるかもな)
こんなことを言えば土方に、いや沖田に笑われるだろう。
だが充分に説得力があった。
それでも平静を装ったまま藤堂は闇の路地へ入っていく。
僅かな灯りがぼんやりと浮かび上がらせているのは乞食だ。
目の前に幾らか銭をやると頭を下げながらそれを引っ掴む。と代わりに小さな丸まった紙を残す。
それを拾うとさっと立ち去り、ある料亭に入った。
「おう、平助
遅かったな」
「遅かったなじゃないですよ、原田さん
任務中ですよ」
「なに、男子たるものこの程度で酔うものか
で、指示は?」
そう言いながらも原田左之助は手酌で一杯煽る。
溜息を吐きながらも説得を諦め、藤堂は先程の紙を広げる。
先程の乞食は密偵で連絡役だ。
密偵は密偵とばれてはならない、なので連絡方法や報告の確認は室内など土方が細かく決め徹底されている。
「桝屋の出入りがあやしいとあります
山崎さんのことだ、勘だけでなく何か確信があるのでしょう」
そういうと紙を蝋燭で燃やす。
「よしよし、そいじゃ偵察に行ってみますか」
こうして二人はその日から近くの家を借りて張り込んだ。
なるほど確かに商売しているようには見えない。
来客は多いが武士風情ばかりで一人、二人と通りを気にしながら入っていき中々出てこない。
またここの主人である桝屋嘉右衛門も滅多に出てこず、さらに下男下女の数も余りに少ない。
商売なのだからもっと人手はいていいはずだ。
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