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『な、生首が、生首があのボートの先に!!』
「え……?」
見渡せば、湖には俺達しかいない。
恐ろしくても、後ろを振り返らずにはいられなかった。
「!!」
そこには、長い髪がボートの先に絡んで漂う女性の首があった。
生前には有り得ない青黒さが異様に不気味で仕方ない。
驚きの状況に目が離せないところへ、信じられない呟きが後ろから聞こえてきた。
「あーあ、楽しい時間が終わっちゃった」
さっきよりも振り向くのが恐ろしくて堪らない。
「なあ、理沙」
情けないことに声が震える。
「なあに?」
「あのさ……ボートに乗った時、俺の後ろの方を見て、あって声を出しただろ」
「うん」
「その時、首に気付いてたんじゃないのか」
「うん、そうだよ」
あまりにあっさりした返事に怒りが込み上げてくる。
「何考えてんだよ!」
勢い任せに怒鳴り散らして、彼女に向き直る。
「だって、怖いものは見たくないんだもん」
そう主張して、彼女は甘えるような困り顔で上目遣いに見つめてきた。
「だから、ねえ。さっきみたいに、いいね、可愛いねって言ってくれるでしょ?」
生首を見た時よりもずっと背筋が寒くなる。
首を傾けて誉め言葉を期待している彼女は、ゾッとするくらい可愛らしい笑みを浮かべていた。
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