第1章

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 そして、その剣はエリスの剣よりも数段も速く、鋭い。そして何よりも荒々しく、重い一撃。  避けきれぬ。レヴィンの威圧に押され、そう悟った盗賊は、前方に走り出そうとした体を渾身の力を込めて大きく後に仰け反らせた。前に踏み出した足に余計な負荷がかかり、独特の痛みが走る。  その刹那、鼻先紙一重の距離をレヴィンの剣、その先端が駆け抜けた。恐怖で呼吸が一瞬止まり、全身から脂汗が噴き出した。  振り抜かれた剣が、盗賊の頭上で天を突く。レヴィンはそこから瞬時に上段に構えなおし、更に一歩大きく踏み出す。  賊は、第二撃は頭上から来ると判断した。あの巨大な金属の塊が脳天を直撃すれば命はない。幸運にも狙いが外れて肩に刃が当たろうものならば、自分の細腕など、簡単に切り落とせるだろう。  ならば、と賊は横方向に逃れようと体を翻そうとした。  しかし、動かない。  最初の一撃を回避する際、無理な体勢を取ってしまったため、後足に全体重がかかっていた。次の動作に移れない。盗賊の目が恐怖に泳ぐ。 「もらった!」  レヴィンは、渾身の力を込めて剣を振り下ろす。狙い過たず、大剣は盗賊の肩口を捕らえた。  剣を握る両手に何かが砕けるような不快な感触が伝わってくる。  賊が膝を崩し、肩を押さえ、うずくまった。激痛に耐え切れず沸き起こる悲鳴。それは、けたたましい雷音を掻き消さんが如く。  肩口から一切の出血はない。先刻、剣を上段に構えなおす際、平で打ちつけるように持ち替えたからだ。  とはいえ、あれだけの重量をもった剣を渾身の力を込め振り下ろせば、例え剣の平で打とうとも、その衝撃は凄まじい。  今の一撃で鎖骨と肩は間違いなく砕かれただろう。  心情的には、刃で思いっきり切りつけてやりたかった。レヴィンの剣技をもってすれば、肩口から心臓か肺を捕らえ、一撃で絶命させることも出来た。  だが、それは実行しなかった。  この男には、色々と話してもらわなければならない。自らの行ってきた罪の全容を。それらを明るみにし、裁きにかけなければならない。  国の管理下にその身分を置き、剣を振りかざし、権威を振るう騎士にとってはそれが道理である。私情で人を殺めることはできない。  どちらにしろ、この男が犯してきた罪を、どれだけ少なく見積もっても、数十年単位の投獄は免れない。余程のことがない限り、生きて娑婆に出ることはないだろう。
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