第1章

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 この言葉は、昔からエリスがレヴィンに突っかかるとき、必ず口にする口癖のようなもの。  発端は、二人の出会いの時に起因する。  二人の出会いは今から遡ること九年前。このグリフォン・フェザーの街の隣に位置する、首都グリフォン・ハートの王城にて、年に一度行われる国王の誕生日を祝う式典でのことだった。 「また、お前か!」 「毎年毎年懲りない小僧だな!」  王城の警護の任についている歴戦の兵士といえども、逃げ回る子供というものはかなりの強敵である。数人の大人が、笑いながら逃げ惑う一人の少年に手を焼いている様は、滑稽ながらも、どこか微笑ましい光景であった。  散々翻弄され肩で息をしている兵士達を尻目に、元気良い笑い声を残し、その場を風の如く駆け抜けた。  少年にとって、必死の形相で自分を捕まえようと掴みかかってくる兵士達と追いかけっこに興じることも、毎年の楽しみでもあった。  その少年──幼少期のレヴィンは、首都グリフォン・ハートに住む学者の家に生まれた。  知恵者を尊び敬う事を習慣としていたこの国の王家は、知恵者の代表とも言える学者を、知識の教授の為にと度々城に招く事があり、その慣習を長きに亘り続けてきた結果、学者とは爵位こそないものの、貴族階級相当の地位にあると考えられ、人々の尊敬を集めていた。  そしてこの日は、年に一度の国王の誕生日式典の日。国内中より王家に縁のある者が集められ、盛大な催しが行われるのである。  もちろん今年も、レヴィンの家は王城に招待されることになった。  幼いレヴィンにとっては、毎年式典に招待されるということには、もう一つ大きな意味──目的がある。  それは、王城に併設されている図書館に納められている、膨大な数の蔵書。  学者の家に生まれ、読書と勉学に勤しむなか、知的好奇心が旺盛な少年に育ったレヴィンにとって、退屈な式典よりもそれらの蔵書を閲覧することこそ、年に一度の最大の娯楽であった。  式典開始早々に、会場を抜け出したレヴィンは、厳戒体制がとられていた城内を元気良く駆け出して行った。  必死に追いすがる兵士達を振り切り、少年は目的の地に──知識の宝庫。グリフォン・ハート王城内にある図書館へと辿りついた。
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