第1章

16/31
前へ
/31ページ
次へ
 式典の開催中、警備の問題上、こういった施設を一時的に閉鎖するよう命令が下されているものなのだが、この図書館を管理する司書は、毎年笑い声とともにやってくる知的好奇心が豊富で、知識と書物を愛する少年に好感を抱き、この罰則なき命令を無視し、少年の訪問を歓迎した。  こうして式典が終わり、晩餐会が始まるまで、少年は読書に没頭する。年に一度の至福の時。  文学、歴史、数学と、沢山の書物を朝から半日以上読み耽るうちに、日も暮れ、レヴィンは晩餐会の会場に戻る事にした。朝から姿を眩ましていたため、両親も心配するだろうと、子供ながらに判断してのこと。晩餐会の会場は、城で一番大きい広間。図書館から子供の足では十五分はかかる。  式典が終わったことにより厳戒態勢が解かれたようで、城内の兵士達の数もかなり少なく、仮に擦れ違っても、朝のように追いかけられるようなことはない。  知識に飢えた頭に、急激に沢山の知識を叩き込んだ所為か、頭がかなり火照っていた。それでも少年は、今日叩き込んだ知識を少しでも忘れないよう、読み得た知識の数々を何度も頭の中で反芻する。  自分の世界に浸りながら歩いているせいか、それとも疲れのせいか、長く静かな廊下を歩くその足取りはどこか夢うつつ。  その所為か、静かな廊下に不意に響いた怒声は、そんな少年の意識を現実へと引き戻すには十分にして余りある効果をもたらしていた。 「もう一回言ってみろよ!」  それは子供の声。声質から声の主は恐らく女の子供。年齢は幼いレヴィンと同じくらいか、もうすこし下なのかもしれない。  ──女なら、もう少し上品な言葉を使ってほしいものだが。  そう、レヴィンは心の中で毒づく。 「騎士の娘。お前は魔物の血に塗れて生まれた穢れた娘。今すぐこの城から出て行け!」  今度は男の子供の声がした。  これらの怒声の連続は右手に見える扉の向こうから聞こえてきた。 「──この部屋は確か」  レヴィンは呟いた。 「今日の式典の為に、来賓の子供たちに用意された控え室のはず。休憩室も兼ねており、こういった催しが行われるとき、喧騒を嫌った子供たちが自然とこの部屋に溜まるようになっていたはず」  少年は思わず、罵声の応酬の止まぬ部屋の前で立ち止まっていた。 「騎士の娘は、この晩餐会の食事を口にする資格はない。騎士の娘らしく町の外で冷めた魔物の肉でも食っていればいいのだ」
/31ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加