第1章

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 また扉の向こうより同じの男の子供の声がした。その言葉が発端となったのか、まるで煽られるかのように、そうだそうだ、という声が一斉に沸きあがる。全てに共通しているのは、声の主は子供であるということ。 「こいつら、騎士を何だと思っているんだ……」  レヴィンは呆れ果て、思わず呟いた。  学者同様、この国では騎士も貴族階級相当の地位として扱われる。  勅命に従い、街の中に蔓延る悪から街を守る。武勇をもって弱きものを助け、善を貫くことの意味を教える。強く、そして優しき生きた指標。そんな騎士の中でも上級の者ともなると、街の外に跋扈しているゴブリンやコボルト、食人鬼といったおぞましき生物──魔物と常に最前線で対峙し、街の中へと侵入する事を防いでいる誇り高き防人。  それが『騎士』と呼ばれる者達である。  街中の安全が確保されているのは、全て彼らの働きがあってのものと言って過言ではない。その強さと勇気、高潔な精神は、民から憧れと尊敬の眼差しを向けられるのだ。  この役割を考えると、『騎士』とて貴人として扱われるのは至極当然のこと。ある程度分別がつく者ならば、あのような言葉が出てくるはずもない。  しかし、これが貴族の子供社会という現実なのだ。  まさに、上流の大人社会の悪しき伝統のみを脈々と受け継いだかの如く。年不相応なまでに心の表裏を使い分け、慇懃無礼な態度をとり、自尊心だけは強く、他人を高い位置から物を見ているかのような素振り。そんな子供たちによって構成された社会なのだ。社交界には縁の無い者達が想像しているような世界ではない。華やかでこそあれ、決して上品な世界とは、お世辞にも言えた物ではない。  レヴィンも年を重ね、現実の姿を子供ながら認識するようになってからは、次第にそういった社会とは距離を置くようになっていった。  そういう経緯もあってか、レヴィン本人も、他の貴族の子供たちとの関係は、決してうまくいっているわけではない。  だから、この喧騒も貴族の子供側から喧嘩をふっかけたもの。それも『騎士』という誇り高き家系に生まれた子供を目の前にし、安っぽい自尊心を損ない、やりようのない歪んだ妬みから発せられたものに他ならない。  そう、容易に想像が出来た。 「──しかし、これは良くないな」
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