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レヴィンは眉をひそめた。会話の内容から想像すると、一人の女に対して、多数の子供が寄って集って虐めているという構図が浮かぶ。
虐められていると思しき女は、恐らく騎士の家に生まれた娘。生まれながらにして、騎士の精神を叩き込まれたのだろうが、所詮は年端も行かない女だ。今でこそ、威勢良く突っ放しているが、いつそれにも限界がくるかわからない。泣き出してしまえば奴らの思う壺、かといって、怒りに我慢しきれず暴れ出してしまえば、奴等は即刻、親に泣き付くに違いない。そうすれば娘の親に相応な恥をかかせる事が出来るだろう。無論、娘も実の親から相当な叱責をされるに違いない。
どちらに転んでも、理不尽な結果が待ち受けているということは明らか。そこまで計算高くなければ、貴族の子供社会では生きていけぬものなのだろうか?
レヴィンは心底呆れ果てていた。
「……よし」
冷静に判断した結果、レヴィンは止めに入ることを選択した。それで喧嘩に巻き込まれようとも、もともと貴族の子供社会になど興味はない。無論、その事を告げ口され、結果的に両親より若干の咎めを受けるであろうが、正直に説明すれば理解してくれるはず。
それだけで十分。
もちろん、日頃から貴族の子供がとる態度諸々が気に入らなかったので、その鬱憤を晴らす契機がほしかったというのもあるが。
「おい、何をしている?」
扉を開け放ち、レヴィンは喧騒の舞台となっている部屋に身を躍らせた。
扉を開け放つその音で、あれだけ騒がしかった喧騒が一瞬で止んだ。その代わりに緊張で、空気が張り詰める。
隠れたところで悪さをしている時、不意の親の侵入を警戒している時に出る、子供特有の悪癖。
「誰だ、お前は?」
一人の幼きレヴィンよりも二つほど年上のように見える男児が、今にも噛み付いてきそうな形相で睨みつけてきた。声質からして、先頭に立ち暴言を放っていた男児に間違いない。
しかし、その表情に凄みというものが存在しなかった。
子供としては異様なまでに弛んだ頬、二重三重に波打つ顎、これもまた産み月の女性なのかと言わんばかりに迫り出した胸と腹。
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