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人間というものは生まれたとき、体の大小のそれほど個人差はないと言われている。しかし、貴族階級の家に生まれ、今まで何不自由なく贅を尽くした食事・生活を送ってきたと思しき目の前の男児は、見事なまでに丸々と肥えていた。人間というものはこれほどまでに変貌するのだろうか。
彼だけではない、この部屋にいる全ての子供たち、男児女児問わず、似たような体型をしていたのだ。
──まるで、豚小屋じゃないか。
レヴィンは心の中で毒づいた。
殴り合いの喧嘩も覚悟の上で意気揚々と部屋に踊りこんだにも関わらず、これでは拍子抜けするというもの。
そんな中、投げかけられる視線に気がついた。部屋の奥の壁際、肥えた子供達の群れに詰め寄られ、半ば埋もれるように、その視線の主が立っていた。
そこには、レヴィンより一つ、二つばかり年下の端正な顔立ちの少女。質素ではあるが上品さ溢れる衣装を纏ったその姿は、誰もが好感を受けるだろう。
涙を浮かべたその目には、明らかな意志の強さをうかがえた。あれが、虐められている騎士の娘だろう。年端もゆかない子供が、これだけの人数に非難を受けながらも、泣き出さずにいたのは賞賛に値する。
「おい! お前!」
自分に意識が向いてないことを察したのか、目の前の肥えた男児が声を荒げ、レヴィンのもとへと近付くと、その胸倉を掴んだ。鈍重な肉体でも、こういったところだけは敏感なようだ。
「『誰だ、お前は?』と聞いている!」
男児の鼻息は荒い。
「……レヴィン」
「どこの家の出身だ?」
自分に意識が向いてくれたことを確信し、男児は満足そうに、かつ悪意に満ちた笑顔を浮かべる。
「クラルラット家の一人息子だ」
「爵位は?」
男児の笑顔に悪意が増した。不運にも吐く息を嗅いでしまったレヴィンの顔が不快感で歪む。胸の奥から吐き気が催すような、そんな不快感。
「それが、何の関係がある?」
「常識だろう?」
「……どの世界のどの常識だ?」レヴィンは呆れ、呟いた。
この国では、学者は貴族と同等として扱われてはいるが、正式に爵位を与えられているわけではない。無論、正式な爵位を持つ貴族よりも身分は低いと言わざるを得ない。
とはいえ、それを正直に白状してしまえば、恐らく相手の思う壺。これ以降、レヴィンが如何様な言葉を用いたとしても、聞く耳をもつ事は期待できない。
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