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これは同時に、この男児は相応の爵位を持った由緒ある家の生まれであるということを暗に示しているということになる。
だから、レヴィンはこう切り返した。
「俺は名乗った。ならばお前も名乗るのが礼儀ではないのか?」と。
その予想が外れていないか確認したかった。もちろん、この分析癖は学者である父から譲りうけたもの。
その瞬間、男児は胸を張り、高笑いを始めた。とうとう、その笑顔に込められた悪意が最高潮に達する。
「我こそは、レーヴェンデ=アンクレッド。アンクレッド公爵の正当な後継者である!」
高らかに男児はそう名乗った。
今まで、自らの出自を明かすたび、周囲にいる爵位の低い家に生まれた子供たちだけではなく、大人でさえも震え上がらせてきた。
その時の様子が、男児の脳内を駆け巡っているのだろうか?
恐らく彼にとっては、この瞬間こそ最大の愉悦なのだろう。肉に埋もれた双眸は、明らかに現実の世界に向けられてはいない。
レヴィンはその様子を冷ややかに観察していた。そして時機を見計らい、自分でも吐き気がするほど、慇懃な口調で鋭く切り返す。
「なるほど、由緒正しきアンクレッド公爵様のご子息でしたか」
発した言葉は、まるで、舞台経験皆無の役者の台詞口調の如く、一切の抑揚や感情の類が込められていない。淡泊なものであった。
「では、先ほどのお言葉、あれはアンクレッド家の公式の声明と受け取って宜しいのでしょうか?」
「……なんだと?」
不意な言葉を受け妄想が中断されたことに、男児の顔が不快感に歪む。
「『騎士の娘。お前は魔物の血に塗れて生まれた穢れた娘。今すぐこの城から出て行け』そして『騎士の娘は、この晩餐会の食事を口にする資格はない』」
レヴィンは、冷ややかな視線をさらに鋭く、室外で聞いた暴言を繰り返した。
「それが、どうかしたのか?」
「ええ。由緒正しきアンクレッド公爵様の正当な後継者のお言葉。これは即ち、貴殿が家督を継いだ際の公爵家の施政方針であると考えて問題はないかと」
大げさな口調をもって、レヴィンは捲し立てた。周囲の集う他の子供達も、この突然のやり取りに、なかば呆然としていた。
学者の息子は続けた。まるで学会で持論を展開するかの如く。
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