第1章

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「……そうであるのならば、我々のような下々の者達は、そのご発言を看過する事は出来ません。やはり正式な声明として王の前、そして父親でありますアンクレッド公爵様の前で発表願いたいものです」 「何故、そんな事をしなければ……」  ここに来て、ようやと事態を理解したのか、肥えた男児の顔が焦りによって醜く歪んだ。その弛んだ額や顎からは脂汗が滲み出した。  その変化を見て、レヴィンは心の中で笑みを浮かべる。 「無論、王より誉れ高き位を授かっているのですから、ご子息殿であれども例外なく、日頃の言動や行動に責任と品格が問われるもの。もし、それを遵守した上で、そのような言動を取られているということならば、それは騎士団とアンクレッド公爵の間にあってはならない軋轢がある証。いち早く公表し、関係を改善させなければならない由々しき事態──この国の基盤を揺るがしかねない事実を、私も国民の一人として見過ごすわけには行きません」  レヴィンは男児の言葉を遮り、強引に腕を取り室外に連れ出そうとした。 「……さぁ、今すぐ王の御前で全てをご報告ください!」  もちろんレヴィンも、そんな暴挙が現実になるなど思ってはいない。そんな事があれば、アンクレッド一家の断絶は免れないのだから。  だが、このような行動によって、相手に面倒を掛けるよう仕向ければ、無責任で悪意に満ちた発言を連発した手前、確実に窮地に追いやることが出来る。 「や、やめろ!」  男児は全身から汗が噴出し、顔には明らかな狼狽の色を浮かべている。  ──やはりな、と。レヴィンはその様子を冷ややかに見つめる。  これまでの行動とやり取りの中、この男児達は、親の目の届かないところで陰湿な苛めをしていたにも関わらず、いざという時には、その親の権威を振りかざす──あまりにも身勝手にして、理不尽。無責任極まりない腐った性根の持ち主であるのだと、学者の少年は理解した。  そこから導き出されること──それは、親の権威の影に隠れ、自らを安全なところに身を置いた状態で他人を誹謗すること。自らは責任を全く負わず、他人を陥れることこそが至上と考える。人間性を疑いたくもなるこの素性こそが目の前の男の本質そのものであると。
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