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少女が笑う。屈託のない魅力的な笑顔だった。
「お前……何者だ?」
それと好対照に、レヴィンは憮然とした表情をしていた。年に一度の楽しみを、年下の少女に笑いものにされるのは、愉快な話ではない。
「私はエリス。エリス=シェティリーゼ。この国の騎士団を統べる騎士総帥の娘。代々騎士の家系であるシェティリーゼ家の生まれ」
憮然とした表情のレヴィンの顔を見つめ、少女は笑顔で名乗った。
──これが、二人の出会いであった。
<4>
目の前には酔いつぶれ、机の突っ伏し眠ってしまったエリスが安らかな寝息を立てていた。
「……やっと眠ってくれたか」
レヴィンは心底から安堵した様子で、その様子を眺め、呟いた。
彼女が持っているグラスには、レヴィンが注いだ酒が、半分ほど残っている。
外の雨脚は勢いを増すばかり、明日の朝までに止むかどうか、見当もつかない。
「こんな雨の中、こいつを抱えて帰らなければならないのか……」
レヴィンは新たな問題に頭を悩ませる。
九年前の出会い以来、レヴィンとエリスはずっと一緒だった。遊ぶ時も、喧嘩をする時も、勉強をする時も、剣の稽古をうける時も、こうして酒を飲む時も。
そして、騎士になる時も。
この国では貴族階級、またはそれ相当の家に生まれた男児、そして武官の家に生まれた者は、家督を守る為に幼少の頃から剣の稽古をうける風習がある。
レヴィンも例外ではなく、その時、稽古をつけてくれたのは、エリスの父。騎士団総帥シェティリーゼ卿であった。
学者志望だったレヴィンが騎士になったのも、師たるこのシェティリーゼ卿がレヴィンの身体能力を高く評価していたから。そして、エリスの強引な説得があったからである。
こうして、二人は正式に騎士を志した訳だが、その直後にレヴィンはその選択に後悔することとなる。
二人の教育役として現れたのは、数人の兵士……幼少の頃、レヴィンが散々からかった王城守衛の兵士達だったからだ。
それ故、彼らとの訓練生活は地獄そのものであった。
騎士団長の娘であるエリスは丁重に扱われた事に対し、レヴィンには昼夜問わず過酷な訓練が課せられた、もちろんこれは積年の恨み以外の何者でもない。幾度となく、この運命を呪ったことか。
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