第1章

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 苛酷な訓練期間も終わり、正式に騎士資格を得た後、腐れ縁というものも、ここまでくると珍しいもので、二人は同じこのグリフォン・フェザーの街を守衛する騎士隊への編入を命じられた。それが、今から約二年前のこと。  それを周囲からは男女の関係と勘違いされたのか、よく先輩の騎士達からは冷やかしの対象にされている。任務のことについて喧嘩をすれば『痴話喧嘩』だの『夫婦喧嘩』だのと茶化され、その度にレヴィンは必死に弁明する羽目にあわされていた。しかし、そんな必死に否定するレヴィンに対し、当のエリスはこの事に関してのみ、何一つ弁明するようなことはしていない。曖昧で歯切れの悪い返答をするばかり。 『──エリスからも否定したおいた方がいい』  過去に一度、エリスに詰め寄ったことがあった。増長した先輩騎士達の態度に、レヴィンの苛立ちが最高潮に達したときだ。 『無理にはっきりさせる必要はないじゃない?……周りにからかわれたからって任務に差し支えがあるわけじゃないからね』  しかし、レヴィンの思惑とは裏腹に彼女は涼しい顔でこう答え、更にレヴィンを悩ませた。  レヴィンもエリスも既に二十を超えている年齢だ。  そろそろ良い相手を見つけ伴侶とし、子を残すことを真剣に考えなければならなくなる時期。そんな大切な時期に周囲を──それがたとえ、腐れ縁の幼馴染とはいえ──異性が付きまとっている状態では、色々な意味で不利益が生ずるのではないだろうか?  特に女性は結婚する年齢が高ければ高いほど、出産の際に失敗する可能性が高いと言われ、最悪の場合、母子ともども命を落としてしまう事だってある。  まして、レヴィンやエリスのような階級の者に関しては跡取りの問題が今後重要視される。特に女性であるエリスは尚更、結婚年齢に対する世間の評価は厳しい。  そういった事情から、レヴィンはエリスの今後の人生とその身を案じている。しかし、当のエリスからは全く焦りというものをうかがい知る事は出来ない。  長年、顔をあわせてはいるものの、この一点に関してのみ、レヴィンはエリスを全く理解できないでいた。 「う……ん」  そのエリスが、吐息を漏らした。少し眠りが浅くなってきたのだろう。起こして連れ帰るにはいい頃合なのだが、外の雨脚は一向に衰えを見せる様子はない。 「店主、部屋を頼む」  レヴィンはエリスを連れ帰ることを諦め、酒場の店主に声をかけた。
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