第1章

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 彼らは街中で他人と擦れ違う時にわざと肩と肩を衝突させ、なるはずもない大怪我をしたと言いがかりをつけ、脅迫をしては多額の金銭を要求するといった手口で、荒稼ぎをしているという。  昔より、この手の賊は基本的に個人の犯行というのが定説とされており、街の治安を守っている巡回兵達に任せておけば、問題はないと考えられてきた。  しかしその定説は手口を組織化・凶悪化させることにより、脆くも崩れ去ることとなる。  要求額は日増しに高くなり、かと言って支払いを拒めば自宅まで追跡され、その周辺で居座りや誹謗中傷の類を繰り返す。  それでも尚、支払いを拒むようならば、彼らは被害者の家族にまでその汚い手を伸ばしていった。  一人でいるところを連れ去り、集団で暴行するだけに飽き足らず、さらにそれが婦女子ならば、更に非道な行為にまで及ぶまでに冗長していった。  名目上、巡回兵は騎士隊の指揮下に置かれてはいるが、その正体は、金で雇われた一般の者達である。ある程度の訓練や教育を施されてはいるものの、騎士のそれとは比べ物にならぬ。  無論、与えられた権限も、然程強くはない。  このような性質上、組織化・凶悪化した集団にとって、彼ら巡回兵は無力な存在であったのだ。  そう。常に巡回兵の目があるにも関わらず、罪のない弱者から金銭を脅し取り、莫大な利益を不正に得ることに成功していたのは、このような背景があってのこと。  もはや巡回兵達の手に余ると判断した『騎士隊』は、レヴィンとエリスに、この賊の掃討を命じたのだった。  調査により賊の本拠地を突き止めた二人は、一網打尽にせんと、十数名の仲間を引き連れ、その本拠地と思われる貧民外の一角にある廃屋に一斉に雪崩れ込んだのだ。  レヴィンとエリスは、齢二十を超えて数年。騎士資格を得てから二年足らずの若い騎士ではあるが、騎士になるために過酷な訓練と試練を乗り越え、騎士の名に恥じぬ武力と、騎士道精神をその心身に叩き込んでいる生粋の職業戦士である。  また、レヴィンに従う者達も、長き戦いの歴史の中で培った百戦錬磨の強者であった。  ましてや、敵は所詮、弱者に対し卑劣な手を使わなければ、己の力を誇示することができぬような者達である。騎士の手にかかれば、彼らを征する事など、赤子の手を捻るよりも容易い事であろう。
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