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時折、思い出したかのように、鋭い突きや袈裟切りにも似た変則的な動作を織り交ぜることはあるものの、基本的には同じ動作を百数十回、数百回と繰り返す。
これは彼が騎士となり二年もの間、有事の時以外、毎朝一度たりとも欠かしたことのない習慣である。
愚鈍なまでに積み重ねた努力の果て、彼の剣技はこの境地にまで進化を遂げていた。
顎の先から滴る汗が、その証。
瞬間的に集中力を高め、剣の切っ先に至るまで、まるで己の肉体の一部であるかのように神経を行き渡らせたそれの軌道には寸分たりも狂いは見せぬ。
それは、一振りごとに精神力を消耗させ、神経を磨耗させる苦行。肉体・精神双方を徹底的に鍛え上げた果ての業。
学者の家に生まれ、幼少期は書物に囲まれた生活を送っていたレヴィンの体躯は、騎士として、剣士として恵まれたものではない。
重厚な鎧を身に纏い、剣を振りかざし魔物と対峙するのを生業とする、騎士の中では稀有な出自の彼が、父と同じ学問の道ではなく、騎士道を志すこととなったのは、幼少の頃に出会った、ある少女の影響であった。
「精が出るねぇ」
騎士に向かい、不意に声がかけられた。明るい女性の声。
その声に応じるかのように、レヴィンは全身の緊張を解く。正眼に構えられた大剣が降ろされ、切っ先が砂利だらけの地面に向けられた。
口元に軽く、しかし優しい笑みを浮かべ、小さく息を吐いた。
「騎士として、剣の腕を錆び付かせる訳にはいかないのでね」
「騎士が騎士に説教、ですか」
明るい笑い声があがる。
声の主は、短く切り揃えた活発的な印象を与える髪と美しい額飾りが印象的な女性。
帯剣し、肩当てと胸当てといった簡素でありながらも、着用者の敏捷性を損なわぬ、機能的な造りをした鎧を身に纏っていた。
そして、その胸当てには、鳥類の翼を模った紋章が刻まれていた。
頭と翼は鷲、胴は獅子の形をした獣──この地方で、聖獣として崇められている、グリフォンの翼を模したもの。
それはレヴィンと彼女が所属する騎士団の紋章である。
彼女の名はエリス。
この地方の全騎士団を総統する男を父に持つ、生粋の武官の娘。
幼少の頃、二人が体験した些細な事件を契機に出会い、今では十年近くの付き合いとなる。
また、レヴィンを学問の道から、騎士道へと導いた──その張本人こそ、彼女である。
レヴィンは再度、剣を眼前に構え、振り下ろした。
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