第1章

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 幼き少女の頃に神殿に身を寄せてから六年。神に祈るだけ、教典を読みなぞるだけの毎日の中で、次第に薄れていた認識。漠然としか理解していなかった事実──事件により、その『無知』に気付かされ、思い知らされた事があった。  生命の喜び、生きるという意味を。  人が人である為の、その始原となるものを。  それを再認識する為に、セティは旅立ちを決意した。  かつて訪れた巡礼地を巡り、見聞を広げようと思い至ったのだ。  そして、その旅に護衛として同行しているのが、レヴィンとエリスの二人の騎士である。 「レヴィン、そろそろ出発の準備をしようよ」  朝の稽古を止める様子のないレヴィンに、エリスが声をかける。  まだ、天に曙光が差して間もなく、空はまだ薄暗い。行動を起こすには少々早い時刻とも思われたが、彼女が先を急ぐには理由があった。  この渓流に沿い、下流に下れば、やがて街が見える。  街の名はグリフォン・アイ。  グリフォン・フェザーの街を旅立った三人にとって、旅立ち後、最初に辿りつく街となる。  そこは、もう目と鼻の先の距離──今、出発すれば夕刻には到着することだろう。日が暮れる前に、そのグリフォン・アイの街に着く為、早々の出発を主張しているのだ。 「そうだな」  レヴィンは穏やかに流れる川の水面を眺め、言った。 「そろそろ出発するとしよう」  高く昇った太陽が穏やかな光を渓流に投げかける。その暖かい陽光を身に感じながら、三人は歩を進めていた。  渓流のせせらぎ、渓谷を吹き抜ける風、砂利道を踏みしめる独特の音、天を舞う鳥の囁き。  その全てが、心地よい。 「気持ちいいね」  エリスが、心底からの感想を漏らす。旅立ちから幾日。彼女から同じ言葉を何度聞いただろうか。  その言葉に、二人は苦笑で応えた。 「なによ」  そんな反応にエリスは頬を膨らませ、軽く拗ねた。二人からは遠慮のない笑い声があがる。 「率直な感想を言っただけじゃない」 「その感想とやらに興味を示して欲しかったら、その乏しい語彙をどうにかすることだな」 「レヴィン!」  エリスが声を荒げ、相棒の騎士を睨みつけるが、当のレヴィンは小気味良さそうに目を逸らしながら鼻歌を歌う。  渓谷に、また笑い声が木霊した。
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