第1章

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 <1>  険しい山々を連ねる尾根。  地面には草木の類はなく、その殆どが薄茶色の土が露出している不毛の地。  眼下には、低い建物が立ち並ぶ町並みを一望できる。  そんな心寂しげな場に、その館はあった。  高い石壁に囲まれた敷地の中、花崗岩で作られているその館は、乾燥味を帯びた地を静かに彩っていた。  長年に亘り砂塵混じりの風に晒され、外壁は薄汚れてはいたものの、石本来の持つ美しさを純粋に表現された建造物は、見る者に素朴ではあれど荘厳な美しさを伴った印象を与えていた。  外壁の南側、道に面したところに門が設けられてあった。金属で補強された木製の門が、内側に向かって開け放たれている。  その門をくぐり向け、敷地内へと入ってきた者達がいた。  飾り気の一切ない甲冑で全身を包んでいる男の姿。  一見すると、どこかの隊に所属している騎士とも思われた。  しかし、その胸には所属を表す紋章は無く、背中に吊り下げられた剣の鞘、そして甲冑もまた血で汚れ、所々錆付いているという有様。本物の騎士であるならば、決して身につけることのない粗雑な代物。  兜はつけておらず、褐色で彫りの深い顔を晒していた。黄土色の髪は、全く手入れされた様子もなく、無造作に肩のところまで伸ばされている。  まさに流浪の戦士の風貌。  ふと、一陣の風が吹き、木製の門、その蝶番が軋む音が鳴った。  麓より吹き上げるかのような、この高山地帯特有の風。  ここは、高山都市として知られるグリフォン・テイルの街。この地こそが、大陸の宗教勢力の本拠地。辺境の街にも関わらず、大陸中に散在する聖職者を統べる大聖堂が存在する聖地であり、一大宗教都市であった。  男は、その街の外れにある館の前に佇んでいた。  門をくぐると、綺麗に手入れされた小道があり、正面に立っている館の方へと続いている。  戦士は、その館に向かい静かに歩きはじめた。  伴の者と思しき二人がそれに続く。  片方は女。腰に太刀を佩き、白色の衣服を着ていた。しかし、その裾からは鎖帷子が覗き、時折、布と金属が擦れる音を立てている。  肌の色は褐色。背まで伸ばされた長い髪の色は銀。背格好は違えど、彼女の前方を歩く男と、どこか似た印象を与える風貌。  そしてもう片方は、全身を覆い隠すかのような長衣を纏い、フードを深く下ろしている為、その顔の詳細を伺い知ることは出来ない。
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