第1章

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 策を弄し、様々な政治家に取り入り、己の派閥を大きく育て上げた事に成功したものの、それ以上に地位に就くためには、民衆の支持が必須。それは、悪評高い彼女にとって、到底手に入れることのできぬ代物。  それはまさに、飼い殺しの様相。ソレイアは己の招いた悪評によって、出世の芽を潰してしまい、野望は志半ばで潰えるものと思われていた。  だが、それは彼女の前に、この二人──黄土色の髪の男・ヴェクターと、その実妹にして妻である銀髪の女・カレン──が現れた事により、運命は大きく変わることとなる。  騎士を何よりも憎み、『騎士不要論』を掲げた第一人者にして生命操作術の権威として、その名を知らぬもののいない天才錬金術士レーヴェンデ=アンクレッドに師事している二人は、途方に暮れていたソレイアに、錬金術の知識──生体の脳に埋め込む事により、他者を意のままに操る技術──『黒い蟲』を授けたのだ。  そう、ソレイアはその技術の力を借りて、グリフォン・テイル議会最大派閥であるユージン派の領袖ユージンを操り、議会の票を意のままに操る事のできる地位を手に入れると、ヴェクターらの事前に提示した交換条件に従い、権限を行使して、聖獣グリフォンの魂が眠る霊峰の解放を実現させた。  聖獣グリフォンは昔日の戦において、魔物でありながらも人間の側に与し、その膨大なる魔力をもって数多の魔物を撃退した獣。それ故に魔物は恐怖し、聖獣の死後、その魂が眠るこの地方に魔物が接近することはなかった。一般には、聖獣の魂が魔物を遠ざけるための波動を出し続けていることに起因しているという、誰が吹聴したかもわからぬ諸説が、定説として扱われていた。  だが、それもソレイアが霊峰の解放を実現させ、調査の手が入ると、その定説とは似て非なる真実を白日の下に晒すこととなった。  確かに聖獣の魂は存在していた。だが、その実は異なり、聖獣の魂の正体は只管に無味無臭、無指向性の純粋なる『力』の塊であり、諸説で語られるような類のものに非ず。即ち、魔物にとっても一切『無害』な存在であるという事を。  それを知った錬金術士レーヴェンデ=アンクレッドの門弟にあたる錬金術士達。『騎士不要論』を唱える師の教えに盲目的に従う狂人の群れは、『蟲』の力を用いて魔物を率い、グリフォン・テイルへの侵攻を始めたのだった。
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