第1章

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 定説を信じていたが為に、魔物に対する本格的な武力を持ち合わせていなかったグリフォン・テイルは瞬く間に陥落することとなる。  それこそが、ソレイアと錬金術士の狙い。  錬金術士らにとって、この侵攻は師の思想を叶える為──魔物に対する武力である騎士の地位を失墜させる為の手段を世に示す事であり、そしてソレイアにとっても、自分に否を突き付ける民衆を粛清し、新たなる支持基盤を構築するために必要な過程であったからだ。  こうして、かつての聖都グリフォン・テイルは魔物らにより蹂躙・占領され、彼らを新たな臣民と定めた『神聖ソレイア公国』の建国へとなった。  それが、二ヵ月前の事である。  だが、魔物による占領・支配こそ成功したものの、逃亡する元聖都住人らの追討に失敗してしまったことにより、事の次第が周辺地域のみならず、遥か東方の王都に至るまで、この事実が白日の下に晒される事となった。  無論、このような非人道的な行為は公に認められる筈もなく、周辺地域からの非難は必至。国の武を担う騎士団や、教を司る神殿、そして政を担う議会が総力をもって、やがてこれを討ちにかかるであろう。  故にソレイアは直属の配下たる錬金術士兄妹に、周辺地域の動向を監視するよう、命令を下していたのだ。 「恐らく、彼らは一度グリフォン・ブラッドの街に集結した後、グリフォン・ブラッド、グリフォン・リブ、フラムへと兵力を分散してくるものかと思われます」銀髪の女、カレンが言った。「そうなれば、もはや我々は封鎖されたも同然。この国は標高が高く、土地が痩せている以上、今後、必ずや食糧の問題が浮上する事でしょう。せめて麓との交易経路を確保せねば、逼迫した事態に発展しかねません」  声は平静を装ってはいたものの、心底に渦巻く焦りの感情は隠しきれぬ。  そんな部下の言葉を、黒衣の司祭は頬杖をつき、黙して聞き入っていた。端正な顔に、冷ややかな笑みを浮かべたまま。  数瞬の後、ソレイアは静かに口を開いた。 「その目論見は、成功し得ぬ」──と。  いつの間にか地図上の駒が動かされていた。先刻までグリフォン・ブラッドの位置に置かれていたはずの三つの黒い駒のうち、一つ──城兵の駒のみが、遥か北方にあるグリフォン・リブの街を示す位置へと置かれていた。
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