第1章

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 <1>  ──この街は、二ヵ月前に死んだ。  雑然と荒らされた石畳の道の両脇に立ち並ぶは、焼け崩れ、朽ち果てた家屋の数々。そして、地面に横たわるは多くから成る人間の死骸と白骨。  放置された死骸を温床として蛆や蠅が湧き、これら腐肉を好餌として多くの鼠が群れる様は、街が街たる機能を全く果たしていない確固たる証。まさに死せる集落の惨状。  この命なき街──その名はグリフォン・フェザー。  聖獣グリフォンの翼の力により、清浄なる空を与えられた奇跡の街。かつては人が集い、そこでは豊穣なる生命の芳烈に酷似した生活の営みが育まれていた。  だが今、その清浄なる空は、死を直感する朽ちた臭気を伴った黒き澱みの如き瘴気によって支配されており、無論、街からは生気の類は一切感じられぬ。  そんな荒廃の果てにある街に訪れた雲の無き夜。僅かに欠けた月が天空の円屋根を飾り、地上の荒廃を黄金の光にて照らし出していた。  街中を流れる河、水面は宵闇の暗色に染まり、そこにもう一つの月が輝いたかと思うと、流れに映る金色が二つ、三つと数を増し、遂には十を超えたかに見えた。  松明を掲げながら、河に架けられた橋の上を駆ける一団であった。これらの正体はグリフォン・フェザーの住人の男達であり、皆、武具を携えていた。武具は粗悪なものばかり、大半は狩猟用として作られた手製の代物である。  じきに一団は、街の外れにある家屋の前で足を止めた。  今まさに、目当ての地に立った事を知って、男達は各々の武具を構えた、剣を、手斧を、そして槍を。  その目に浮かぶ感情は狂気にも似た輝きに満ち、また同時に悲壮な覚悟を抱いた捨身ゆえの無感情さすら窺える。  彼等の襲撃の理由は、この街が死した理由に直結していた。  この街の荒廃は、錬金術師によってもたらされた。「一部の」錬金術師とその支援者らによって。  錬金術とは、発端は化学的手段を用いて卑金属から貴金属に精錬する、その手段を模索することに始まる。  現在に至っては、金属に限らず様々な物質を練成し、新たな技術を発見・開発をすることによって、生活においての利便性向上を図り、それにより最終的には国に富をもたらす為の術として、人々に受け入れられている技術である。
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