第1章

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 事実、これらの品・技術の開発により、世にもたらされた恩恵は大きなものであり、その恩恵の大きさから、錬金術を行使する錬金術師が畏怖と畏敬をもって迎え入れられている地域も存在していた。  だが数ヶ月前、非合法な人体実験を繰り返し、グリフォン・フェザーの街を恐怖の底へと陥れた果てに、二人の騎士と一人の神官によって捕縛された、ある錬金術師がいた。  その錬金術師の名は、レーヴェンデ=アンクレッド。  錬金術の一分野である生体研究の第一人者であり、同時に公爵位を持ち、議会に対して多大なる影響力を持つ有力者の捕縛は、当時、グリフォン・フェザーの街に激震が走った。  これを発端に民衆らの間に錬金術師を嫌悪する風潮が急速に広まったのは言うまでもない。  その数週間後、このレーヴェンデを捕縛した三人によって、彼が他の街で犯した罪が暴かれた。  無論、グリフォン・フェザーの街中に追訴を求める声が広まり、その世論に後押しされるかのようにレーヴェンデに対する追訴の議会が召集され──希代の天才錬金術師は処刑台の露と消えた。  議会に費やされた時間は、僅か三時間。重罪人と言えど、人の生死を決める議論の場にとって、それは決して十分な時間とは言えぬ。  識者からも、議会に対する痛切な皮肉や、辛辣な意見・指摘が飛び交う中、一際怒りを見せたのは、レーヴェンデの派閥に属する革新派の貴族達であった。  その怒りの捌け口として向けられたのは、グリフォン・フェザーの街。おのが配下たる私兵らに暴動を起こすよう指令を下すという暴挙に出たのだ。  これにより、騎士隊の一小隊にも匹敵するほどの武装集団が暴徒と化した。  街を守衛するはずの騎士隊も、西方地域での起こった騒乱に対応せよとの勅命のもと、その派兵の為に半数以上の騎士が街を空けており、残った数少ない騎兵のみでは、本来の機能を十分に果たす事が出来ず、王都騎士隊の応援を待たずして、これら暴徒の鎮圧は不可能であった。  故に鎮圧に至るまで必要以上に時間を要し、その間に街は徹底的に破壊され、残されたのは数少ない生存者と、瓦礫と死体の山のみといった惨状。
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