第1章

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 混乱に乗じ、暴動の主犯たる有力議員らは、どこかへ雲隠れをし、生き残った騎士隊の者達も満身創痍の中、首謀者の追跡に躍起となっているという現状において、本来、街と弱者を守るべき騎士達に、この死した街を蘇らせるような余力など、残されてはいなかった。  故に、このグリフォン・フェザーには「錬金術師の手によって街は殺された」という事実だけが残り、生き残った数少ない住民らの怒り、その矛先は街に住まう錬金術師らに向けられた。こうして、己の狂気に弄ばれたグリフォン・フェザーの住民は、各々の武器を構えて街を駆け、今宵新たな獲物──錬金術師を狩らんとしているのだった。  だが、それは予想された襲撃であった。  二ヵ月前に起こった暴動を発端に、このグリフォン・フェザーの民の手による錬金術師狩りが頻発。彼等の手による私的制裁に遭い、何人の錬金術師が傷つき、または命を落としているのだ。  無論、その事実は錬金術師らの間で伝えられている故に。  我が身の危険を回避する為、多くの裕福な錬金術師は街を離れ、比較的治安の安定している地域に逃亡を図っているという。  しかし今宵、暴徒の標的となった錬金術師は、逃亡すら叶わぬ貧しき錬金術師であった。  襲撃者の立ちはだかる家屋の敷地内、その片隅にある納屋の隅で、一人の少女を強く抱きしめながら蹲っている男がいた。  彼と少女の耳朶を打つのは、多数の人間らから発せられていると思しき怒声と荒々しき足音。  男は声と足音の主を知っていた。そして、彼らの目的も。 「父さま」  腕の内の少女は泣いた。  父と呼ばれた男は、少女を抱く腕に少しだけ力を込める。 「私が何をしたと言うのだ」男は、下唇を強く噛み、恐怖と怒りを必死に押し殺していた。「ただ、錬金術師であるというだけで」  男の名はクラウス。このグリフォン・フェザーの街に住む薬師。錬金術の知識を活用し、薬草と薬品の調合による新薬を開発し、怪我人や病人の治療を施しては頂く礼金によって生計を立てている。  薬とは、錬金術師がもたらした賜物。薬草の調合次第で、色々な怪我や病に効果があるといわれている。  しかし、多くの錬金術師は、王族や有力貴族に囲われ、身分を過剰に保護されている。そんな状況下において、その錬金術師がもたらす恩恵が末端の人々まで行き届いているとは言い難い。
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