第1章

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 ましてや、体外に露出している『蟲』に打撃を加えるのは容易く、その弱点を知る者にとって『蟲』の存在は最早脅威に値するものではなかった。  その致命的な弱点を克服する為に、カレンの兄にして夫であるヴェクターが開発したものが、この薬である。  それは、たとえ戦いの素人であろうと、最強の戦士へと変貌させる魔性の薬であった。 「グリフォン・クラヴィスが攻略され、フラムとグリフォン・リブで孤立を余儀なくされた神官戦士団は、再び騎士団と手を組むこととなるであろう。そうなれば、勢力を回復した彼らが起こす行動とは──」 「西の最後の拠点グリフォン・ブラッドの攻略──」  カレンの表情が一際険しくなる。  それは、今後の戦局面において大きな意味を持つものであった。  グリフォン・ブラッドの攻略──その理由の第一に挙げられるのは、現騎士団長シェティリーゼ卿の救出にある。  数ヶ月前、シェティリーゼ卿が構築した包囲網の間隙を縫い、ソレイアがグリフォン・ブラッドへ送り込んだ軍勢を阻止せんと、自ら騎兵を率い──そして敗北し、ソレイアの手に落ちた。  今、その主なき騎士団の指導者は副総帥アルファードが代理を務めている。だが、騎士団内ではシェティリーゼ卿の生存を絶望視する者も多く、拭い去れぬ不安が蔓延しているのが現状。今後の士気に暗い影を落とす材料となるのは言うまでもない。  故に、騎士団にとってシェティリーゼ卿の安否確認は目下の最優先事項であると思われた。  そして第二に挙げられるのは、数ヶ月前に構築しようとして、ソレイアの手によって頓挫を余儀なくされたソレイア公国に対する包囲網の再構築である。  前回、王都よりシェティリーゼ卿自ら率いて西に送られた軍勢は、騎士団、神官戦士団、そして議会の有力議員より有志として派遣された私兵団による混成軍。  比較的思想が近い騎士団と神官戦士団と、規律や戒律、または慣習などの面に大きな相違のある私兵団との間には隔たりがあり、これらは一枚岩の団結があったとは到底言えるものではなかった。  極めて脆い基盤の上に成立している実情、その『匂い』を素早く嗅ぎ分けたソレイアの手によって、これら混成軍は悉く攻略され、同時に公国の発展への大きな契機ともなった。  だが、今は違う。  この度、王都より送られたのは王都騎士団の一師団。前回の混成軍と比べ、その勢力と統率力たるや比較にならぬ。
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